2017/07/06
こんにちは、ビッグデータマガジン「やさしい業界解説」シリーズ担当の杉浦です。
本シリーズでは、各業界がどのようにビッグデータ分析をビジネスに役立てようとしているか?をテーマに、様々な業界のお話をさせていただきます。第4 回目は耐久財メーカーです。ここでは、自動車、家電、携帯、電機などのメーカーを取り上げます。
■自動運転の分野で競い合う自動車メーカー
ビッグデータマガジンのコラムとして7月に投稿された「ビッグデータで交通事故件数 2割減! ~交通安全とビッグデータ~」では、最後にGoogleの自動運転動画が紹介されていました。
ひとことで「自動運転」と言っても、前方に危険が迫ったら自動でブレーキをかけ、同時に障害物をよける自動ハンドル操作をするという程度の“危険回避”から、日常の運転動作を完全に自動で実施するという自動運転まで、メーカー各社が様々なケースを発表をしています。
- 日産自動車は8月28日に「2020年までに革新的な自動運転技術を複数車種に搭載する予定」と発表。
http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2013/_STORY/130828-02-j.html
- トヨタ自動車は10月11日に「自動運転技術を利用した高度運転支援システムを2010年代半ばに導入 〜高速道路における安全運転の支援と、運転負荷の軽減を目指す〜」と発表。
http://www2.toyota.co.jp/jp/news/13/10/nt13_057.html
(トヨタ自動車の自動運転実験車)
とうとう、自動車が人間並みの頭脳を持つ時代が来たようですね。人によっては“人間以上”と表現する方がいますが、限られた領域ではそれも正しいと言えそうです。
■「腕時計」の分野に参入する「携帯電話」メーカー
スマートフォン市場で生き残ったメーカーが、こぞって“腕時計”市場に参入しているようです。
- ソニー
NFC搭載で防水防塵になったスマートウォッチ「SmartWatch 2」を発表。
- サムスン
Android 搭載の腕時計型スマートウォッチ「Galaxy Gear (ギャラクシー・ギア)」を発表。1.63インチディスプレイに190万画素カメラなどを搭載。日本でも10月17日よりNTTドコモと KDDI au から発売。
サムスンのサイトより引用
- クアルコム
スマートウォッチ「Toq(トック)」は、音楽再生や電話・メッセージのやりとりが可能で、明るい太陽光の下でも画面が見やすい「ミラソル」カラースクリーン技術を使ったタッチパネルをスマートウォッチとして初めて搭載した。2014年1-3月期に発売予定。
腕時計を“宝飾品”とか、“ブランド・アクセサリー”と考えてマーケティングしている時計メーカーにとっては大きな問題ではないでしょうが、腕時計を“生活ツール”と考えているメーカーにとっては大きな脅威となりそうです。
■耐久財メーカーにおける国内事業拡大の課題
耐久財メーカーの製品は、一度購入すると、その製品の耐久性が高ければ高いほど、すなわち良質な製品であればあるほど長持ちし、ユーザーは長期間にわたって買い換えの対価を支払わない、ということになります。一方で、長持ちしない低品質な製品を供給していては、競合メーカーに負けてしまうと言うジレンマがあります。

特に国内マーケットは人口減少の時代に突入しており、人口増加による需要増加が見込めないため、耐久財メーカーの課題は極めて深刻です。そこで、新たな価値を創造する必要性に迫られているのです。
耐久財メーカーでは、これまで提供してきた「製品」を「インターネット・デバイス」ととらえ、様々なデータと連係させて、独自のサービスを展開して付加価値にするという試みも見られます。

たとえば自動車メーカーにおいては、危険回避や自動運転といった移動手段としての品質アップが、既存の競合メーカーとの競争で生き残るために必須ですが、それだけでは価値の増加は難しいのが現実です。これらは“標準装備”になろうとしています。よって、それとは違った視点での付加価値が必要になってきています。ひとつの解が、自動車を「インターネット・デバイス」すなわち、ユーザー接点となるウインドウと見ることのようです。
11月19日、米ロサンゼルス自動車ショーの基調講演では、Googleのグーグルマップ部長タルン・バトナガー氏が「車はパソコン、スマホ、タブレット端末に次ぐ第四のスクリーン」だと強調しており、まるでスマートフォンメーカーに話しかけるように、自動車メーカーに提携の意向を示していました。

■保守コストを削減するという、利益確保のためのアプローチ
限られた市場の中で売上を確保する、拡大するというアプローチについて前述しましたが、コスト削減というアプローチで利益を確保しようとする動きも見られます。
例えば、自動車メーカーにおける事故削減のための自動運転は、メーカーにとっては品質アップですが、損害保険業界にとってはコストダウンです。(もちろん、事故が起こることで売上が増える“修理”“交換部品”でビジネスをしている業態もありますが。)自動車メーカー業界においても“メーカー保証”期間に起こるトラブルは、メーカーの費用で解決しているので、この部分のコストを下げることが出来れば“利益”を生むことになります。
自動車メーカー以外にも、エアコン・洗濯機・冷蔵庫といった家電品や、PC・スマートフォンといった情報機器にも“1年間のメーカー保証”や、追加費用を払う“延長保証制度”といったメニューがあります。故障の予兆を察知することが出来れば、様々な保守コストを削減する事が可能ですし、予防することが出来れば、直接的なコストダウンにつながります。

消費者向けのサービスではないのですが、ダイキン工業は業務用空調機の保守サービス「エアネットII」でビッグデータを活用しています。データを1分単位で収集し、故障の予兆を検知したら異常が発生する前に対処しているそうです。同様の動きは消費者向けの製品でも聞かれるようになるでしょう。
■まとめ:耐久財メーカーがビッグデータを活用するためのヒント
最後に、ビッグデータの特徴である3つのV(Volume、Variety、Velocity)と、耐久財メーカーにおけるビッグデータ活用の関係を整理しておきます。
- Volumeを活かそう!
耐久財そのものが、デバイスになり、データ収集をすることが可能になります。スマートフォンにはすでに、加速度、ジャイロ、照度、磁界、傾き、圧力、近接、温度、湿度、重力、回転ベクトルなどのセンサーが内蔵されているのです。仮説を立てて分析するのではなく、故障やエラーという事象と全データとの相関関係から、その予兆やトリガーなどを発見できそうです。
- Varietyを活かそう!
様々な外部データと連携し、耐久財によって得られるデータと統合した分析から、耐久財そのものが様々な判断をするということが可能になります。気が利くレコメンドをすると言っても良いでしょう。リスクを回避したり、効率的な使い方を勧めたりすることができるのです。自動車では燃費が最も良くなるルートを選択することや、最短時間で到着するルートを、その時々の環境に応じて勧めることが可能です。スマートウォッチは脈拍の変化を察知して、あなたを落ち着かせてくれるようになるでしょう。
- Velocityを活かそう!
リアルタイムな処理が可能になることによって、様々な新しいサービス、機能を創造することができるでしょう。腕時計がリアルタイム通訳をしたり、顔認識で健康判断をした上でエンジンがかかったり、様々なデバイスを音声で操作したりすることができるでしょう。安全な自動運転が実現するためには、リアルタイム処理が欠かせないことは言うまでもありません。

杉浦 治(すぎうら・おさむ)
株式会社 AppGT 取締役
株式会社 学びラボ 代表取締役
一般財団法人ネットショップ能力認定機構 理事
2002年デジタルハリウッド株式会社取締役に就任。IT業界における経営スペシャリスト育成やネット事業者向け研修開発を行う。
2010年4月「ネットショップ能力認定機構」設立。ネットショップ運営能力を測る「ネットショップ検定」を主催。
2013年7月、プレステージ・インターナショナル(東証二部)より出資を受けて(株)AppGTを設立。コンタクトセンターに蓄積された顧客コミュニ ケーションデータを分析し、今後の主要な顧客接点となるスマートフォンの活用において、様々な研究や企画提案を行っている。
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